教訓 幸福とは仕事をすることだ(2007年10月)


 最近、定年近いエリートサラリーマン二人からこんな言葉を聞いた。広告代理店勤務のAさんは「私の人生は間違っていたかもしれない」。出版社勤務のBさんは「今は会社の石潰しをしているだけ」。二人とも誰もがうらやむ学歴、年収、家庭がある。が、今は閑職にあり、幸せそうには見えない。

 定年後は趣味に生きるらしいが、それまでの数年間は“死んだフリ”らしい。高収入も手離したくないし、退職金も満額欲しい、と。経営の安定した大企業や役所には、こういう人たちがたくさんいる。

 “死んだフリ”でいいのだろうか。後進の育成でも、若手がやりたがらない煩瑣な雑務でも、何かに打ち込んでいないと、人生のうちの数年が無駄になりそうだ。

 社会の役に立つことが仕事だし、幸福感はそこから湧きあがってくる。この根本を見失うと、いくら仕事のノウハウを持っていても定年まで頑張れないのではないか。

 今回はお勧めが二つ。アラン『幸福論』(岩波文庫)ヒルティ『幸福論』(白水社)。後者は分厚いので、同書を平易に解説した齋藤孝訳・解説『自分の人生に一番いい結果を出す幸福術』(三笠書房)がとっつきやすい。「自分でつくる幸福というのはけっしてだまさない。それは学ぶことだから、そして人はいつも学んでいる」

 「人はもっともつらい仕事をしている時、疲れを感じないもので、心も軽やかとなる。そうして全きくつろぎが訪れ、最後にはよい眠りを楽しむのである」(以上アラン)

 「世の中には『自分の力でどうにかできるもの』と『どんなにがんばってもどうしようもないもの』がある。/成功者とは『どうにかなるもの』だけに効率よくエネルギーを注ぎ込んだ人である」

 「最も快適で、最も報いられ、しかもお金がかからない時間の使い方は仕事なのだ」(以上齋藤版ヒルティ)

 何がしか社会の役に立つことが、生きることだ。秋の夜長、定年近い方ばかりでなく、若いビジネスマンにも読んで欲
しい。