教訓 空間の潜在力を引き出せ(2007年11月)


 私は演劇青年時代、アルバイトで小さな会社を転々とした。狭い職場に大人数が押し込まれると、二倍も三倍もくたびれたものだ。職場のレイアウトをもう少し考えればいいのに、と思う会社も多かった。
 
 というのも、劇場が同じでも、セットと衣装を変えるだけで世界が違って見えることを知っていたからだ。
 
 自宅も模様替えをしたり、食卓の位置を変えるだけで、同じ部屋が違って見える。
 
 浅田晴之他『オフィスと人のよい関係』(日経BP社)は、職場つくりのヒント集である。著者は岡村製作所オフィス研究所の三人。主にハード面の工夫が解説してある。たとえば観察の結果、次のような場所で人々の滞留が起こると指摘している。@他の人が見ようとすれば見られる。A通り道で何気なく立ち話ができる。Bリフレッシュしたい人には、見つけたり近づいたりしやすい。C仕事をしている人からは見えにくい。――つまり、雑談にはもってこいの場所だ。部下をサボらせたくないリーダーにはわからないかも知れないが、アイデアはこういう場所から生まれる。
 
 本の内容はオフィスのハード面が中心だが、仕事のソフト面にも応用可能なアイデアが詰まっている。
 
 先日かわぐちかいじ氏(漫画家)と話す機会があった。『沈黙の艦隊』が成功した理由を同氏はこう語った。「最初の筋立て(設定)がよかったから物語がどんどん膨らんでいった」と。
 
 職場のリーダーも、“設定”という感覚を身に付けるとよい。ある会社で新規事業部を立ち上げる。それまで評価の高くなかった人がそこに集められる。もちろん、一人一人の潜在能力は必要だが、お互いがお互いの触媒となって化学反応を起こし、予想外の好結果を生むことがある。
 
 設定が変わったことで、劇的に変化した職場の例を、私は何件も見てきた。オフィスとハードとソフトを総合的にみて、その潜在力を最大限に引き出す、プロデュース感覚を持ったリーダーが必要なのである。