教訓 見て、感じて、考えて、実行(2007年6月)


 約10年前、私は『週刊少年マガジン』で『哲也 雀聖と呼ばれた男』の連載を始めた(原案担当)。麻雀漫画である。「失敗する」という意見がいくつも聞かれた。理由は明確。少年誌で麻雀漫画が成功した例はない。麻雀のルールを知らない子供にどうやってわからせるのだ、と。

 私はルールが判らない人にも楽しめる物語を死に物狂いで考えた。ふたを開けてみると読者に好評で、連載は7年半続きコミックや総集編などの累計は1500万部を超えた。

 今回お勧めの本は『できない人ほど、データに頼る』(ダイヤモンド社)である。データは客観的事実。無視していいはずがない。だが、日本では多くの場合、ことなかれ主義の人の、仕事をやらないための口実になっている場合が多い。

 大学の研究室ではデータが全て。だがビジネスの現場では事情が異なる。なぜなら、仕事に関わる人の想像力や勇気、胆力、実行力など、数字にならないものによって成果が左右されるからである。

 もちろん、ビジネスの現場でも議論はデータに基づいて行われる。かくして会社は、議論の内容とビジネスの実相がずれている会議だらけである。例えば、その案件を提出した上司に人望があるかないかなど、本人の前では議論できないし。

 同書の原題は『SEE FEEL THINK DO』。「見て、感じて、考えて、実行する」ことの大切さを説いている。米国企業の実例が紹介されているが、松下幸之助氏が二股ソケットを、本田宗一郎氏がスーパー・カブをヒットさせたのもこの方法だ。

 見て、感じて、考えて、実行すれば、言語と非言語の総合的な情報を収集し、職場の戦力を総合的に認識した上で作戦を立てることができる。

 最近データのやり取りはメールで行われることが多い。が、実は「そこに行き、人に会う」ことに勝る情報伝達方法はない。それができない場合は、携帯電話でもPCでもテレビ電話機能を併用することを勧める。言葉の抑揚や表情も伝達することで、情報の精度が一段と増すからだ。