教訓 グダグダは力なり(2007年8月)


 今フィリピンを代表する劇作家ルネ・O・ヴィラヌエヴァの戯曲『白髪の房(はくはつ ふさ)』を演出している。老人収 容所にいる4人の老人の物語だ。過去にさいなまれ、生きる希望も乏しい人たち。悲劇ではあるが、台詞以外の芝居 では、ユーモアを散りばめた舞台にしようと目論んでいる。

 私は若い頃フィリピンに留学した。第二の祖国だと思っている。私が同国で学んだことのベスト3は、@楽天性 A信仰心が生み出す力 B無為な時間を楽しむ想像力である。

 フィリピンの離島や僻村では、短時間しか働かずに木陰で 一日中グダグダしている人がたくさんいる。確かに貧困や雇用の問題は深刻だ。だが、私はむしろその逞しいグダグダっぷりに感銘を受けた。例えば次の諺を聞いて目から鱗が落ちた。「座る方がよいかもしれないが、横になった方がもっとよい」。

 その頃、自分の才能に限界を感じていたが、そんなことはどうでもよいのだ、と考えを改めた。今回の舞台には私の
気付きを乗せたい。

 さて、お盆休みである。きちんと予定を立てて、勤勉にレジャーしている人も多かろう。が、ちょっと待って。

 阿川佐和子著『グダグダの種』(大和書房)を読まれては如何か。である。著者は、見合いの相手に「休日は何をしていますか」と問われ「グダグダしています」と応えた。「趣味は?」と問わえて、「寝ること」と応える。結局その縁談は、はかなく消えたという。以下、著者の肉声――。

 「私は本質的に家にいるのが好きである。家でグダグダ過ごすのが、大好きである。あまりグダグダしすぎると、日が暮れる頃になって『ああ、なんて無為な一日を送ってしまったのか』とおおいに反省するのではあるけれど、反省しつつ、『きっと疲れた身体がグダグダを欲していたのだからしかたなかったのよ』と、私のなかの『真面目ちゃん』を説き伏せる」

 こういう意見にも耳を傾けよう。休日に眉間のしわを減らすのも仕事のうちである。 ちなみに休日にこの本を読むだけでも、十分にグダグダした気分になれる。