教訓 覚悟の選択が幸運を呼ぶ(2008年10月)


 液晶といえばシャープである。町田勝彦『オンリーワンは創意である』(文春新書、700円)は、1999年に業界7位のブランド力しかなかったシャープが、液晶技術をけん引力に2007年にトップに躍り出るまでの〈液晶風雲録〉である。

 1998年、社長就任直後に町田氏は、2005年までにテレビのブラウン管を液晶に置き換える、と宣言する。 当時シャープのメイン事業は半導体だった。町田氏の方針は半導体事業の縮小を意味していた。社内外から猛烈な反発が起こった。しかし、彼は「小」が「大」に勝つには効果的な「選択と集中」が必要だと考えた。その頃同社の半導体事業の規模は、世界で20番目くらい。対して液晶技術は世界の最先端だった。

 町田氏は液晶でオンリーワン企業になろうと決意した。何も手を打たなければ、決め手を持たないシャープは、ずるずる沈んでいったかもしれない。彼は賭けをした。技術開発なのだから、予想外のことはいくらでも起こる。何万人もの社員を抱えながら見事な覚悟、天晴れな捨て身である。

 彼に異を唱える幹部や、辞めていく社員もたくさんいたはず。だが、「何がなんでもやり遂げる」という信念で、とてつもない逆風を耐え抜く。その果てに、8年で売上高が約2倍、営業利益が5倍に膨らむという結果が付いてきた。

 シャープには幸運もあった。だが、町田氏は幸運を引き寄せる体質を持っている。創業者・早川徳次氏の「他社にマネされる商品をつくれ」という考えを大事にして、社員にわかりやすい言葉で伝えた。たとえば、「I型人間ではなくT型人間になれ」と説く。前者は、得意分野、興味のあることだけを追求するタイプ。後者は、専門を極めるのは当然のこととして、Tの文字のように幅広い知識やスキルを身に付けるタイプ。訴えが明確だ。

 商人だった祖父の口癖を子ども時代に聞いて育ったという。「商売は十年やったら三年は損する。五年はトントンで、儲かるのは二年」。勝負師になっても成功したろう。