教訓 読み出会い体験し失敗を重ねよ(2008年11月)


「バカは何人寄ってもバカである」

 過激な言葉だ。しかもバカと名指しされている人たちは、大企業の幹部である。私は思わずひっくり返りそうになった。

 竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎、950円)という本に出てくる言葉で、考案者は、著者が銀行員時代に 上司だった佐貫利雄氏。同氏はベンチャーという言葉がやっと定着した1970年代半ばに、シンポジウムでこう言った。

 「大企業は有象無象が群がっているからダメ。たとえ一人でも優れた人がいれば、立派な企業はできる」

 日本型の秀才は、周りを見て身の処し方を考える癖がある。そういうタイプが幹部に居並ぶと、組織は硬直化する。一人ないしは数人の独創性を持った経営者によるベンチャーの方が優れていることを伝えている。

 30年経ったが大企業の体質は変わらない。日本経済が今の調子だと一蓮托生で沈んで行くかもしれない。

 バカは「変化に対応できない人」という意味である。秀才がそうなるのは仕方ない。日本は60年以上も“天下泰平”だったし。

 とはいえ、大企業に勤めている若者が、簡単に辞表を出す風潮もよくない。こう考えては如何か。諸行は無常だから経済の不調も永遠に続くことはない。そのチャンスを逃さないために、今は我慢しながら準備を整えておくのである。

 「何をやればいいかわからない」「自分が何に向いているかわからない」という若者も多い。自分の心に問うてみても、答えは出ないだろう。私は若者にこういう。書物をたくさん読み、多くの人と出会い、実際に色んな体験をし、再起できる程度の失敗を膨大に繰り返せ、と。それぞれが自分の体内で地層のように積み重なったとき、初めて内なる声が聞こえてくる。覚悟が固まってくる。加えて、様々な視点や立場からのアドバイスが、自分独自の酵母菌と混ざり合って醗酵し、変化に対応するヒントを与えてくれる、と。

 著者の提案する勉強法、未知の分野に挑戦する姿勢には啓発されること多し。