教訓 自分の言葉を身に着けよ(2008年2月)


 
「文は人なり」という。心の奥から発せれれた肉声は、例え活字に変換されても、筆者の人柄も伝えてしまう。

 そんなわけで、本は言語情報を伝える道具だが、時に非言語情報がぎっしり詰まった一冊に出会うこともある。

 岡野雅行『学校の勉強だけではメシは食えない!』(こう書房)はまさにそういう本だ。著者は深絞りと呼ばれる金型の職人。携帯電話に使われるリチウムイオンケースや、テルモの「痛くない注射針」の開発で知られる。

 若者の悩みに岡野氏が答えるQ&A形式の本である。岡野氏が喋ったことをライターがまとめたと思しい。それでも、岡野氏が困難に果敢に挑み、失敗を繰り返し、新技術を達成する中で、得られた気付きが読む者に迫ってくる。全編借り物ではない、自分の言葉で貫かれている。

 私の胸を掴んだ言葉を並べてみる。

 「技術を積み重ね、経験を積んでゆくと、そのうち自分にしかないものが生まれてくる。それが感性なんだよ」

 「サラリーマン社長っていうのは、責任を取りたがらないからダメだ。責任をみんなで分散しようとして、会議ばっかりやっているじゃないか。社員に『こうやってやるんだ!』っていうのを見せられないようじゃ、社長失格だと俺は思う」

 「成功するまでに何回も失敗するのは当たり前のことなんだよ。『失敗するのが嫌だ、怖い』なんていっていたら、その先に成功があるわけないんだ」

 「商売っていうのは『見切り千両』だと思っている。ベストセラーにしがみつかず、どこかで手放したほうがいいと思うんだ」

 「試行錯誤が楽しいと思うようになったらそれは本物だよ」

 私はサラリーマン経験もあり、職人一筋の岡野氏とは考えの異なる部分もある。だが、自信に満ちていて、心がホクホクしてしている人の本を読むと励まされる。

 私も岡野氏のように、70代半ばになっても現役でいられて、徹頭徹尾自分の言葉だけで一冊の本が書ける人生を送
りたい。