教訓 ビジネス書に読み方あり(2008年7月)


 プロ野球のペナントレース――。今年は、セ・リーグは阪神、パ・リーグは西武が好調だが、開幕前にこの展開を予想できた人はいるだろうか? 両チームとも、未知数の部分が多くて、「今年はどうなるか、やってみなければわからない」という状態だった。野球評論家も、予想を外した人が多いのではあるまいか。

 だが、今なら両チームが好調の理由を、理路整然と分析することができる。後付けなら、割に簡単だ。

 経済評論家も、理屈は野球評論家と同じである。いくら理論に秀でていても、予想が当たるとは限らない。何故なら、森羅万象のうち、人間が認識できる部分はごくわずかだからである。しかも、データは現在の科学が料理しやすい形で集めているから、偏るものなのだ。

 フィル・ローゼンツワイグ著 桃井緑美子訳『なぜビジネス書は間違うのか』(日経BP社)では、ビジネス書一般にそういう傾向があるとしている。A社はこの作戦で成功した、B社長はこの方法で人を動かした、と書いてあるのが多くのビジネス書である。だが、成功例を丁寧に解説しても、本というパッケージに収められる情報はごく一部だし、“著者の視点”という偏りがある。また殆どの場合後付けである。だから、ビジネス書には落とし穴がある、というのが著者の指摘。

 本書はまっとうな本で、例えばハロー(後光)効果など、知っておいて損はない知識がたくさん得られる。だが、まっとうな意見は、人から元気を奪うという欠点がある。あれもダメ、これもダメ、ではどうすればいいのかわからなくなる。

 ビジネスで最もいけないのは、組織や作戦の固定化である。新しい考え方で、よいと思えるものは、どんどん取り入れて試した方がよい。そのためには、例え後付けであることがわかっていても、ビジネス書を読むべきだというのが、私の考え方である。

 元気になれる本を一冊紹介しよう。小沢コージ著『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)仕事に使える小さな工夫が密度高く詰まっている。