教訓 ジャンルを越境しよう(2008年8月)


 畑村洋太郎は失敗学の発案者として知られ、普及にも力を注いでいる。『みる わかる 伝える』(講談社、1200円) は、盲学校で実践されている教育が、自身の考える理想的な教育とほぼ同じだ、と感激して書かれた本だ。

「盲学校の教育現場における理解の方法についての研究は、健常者に対する教育現場より遙かに進んでいたのであ
る」

 本書には著者の伝えたいという意思が漲っている。

「わかる」に関しては、「要素の一致」「構造の一致」「新たなテンプレート(型紙)の構築(=学習)」の三つで成り立って いる、と説明する。たとえば、目の前にうまそうなソバがある。私たちは、過去に入った店の外観や値段、店員の態度、 器やそばの見た目、店内の装飾や客の雰囲気など、経験や知識でつくったテンプレートと照らし合わせて推測している のである。推測と実際の味が一致したとき「わかった」ことになる。今までにない味や個性的な雰囲気の店にであった 時に、それを理解しようと考えることが「学習」となる。

 わかるために行動するのが一番よい。「行動と結果、そしてそれを結ぶ理論の三つを理解して、はじめてその人は『 わかった』ということができるのである」
「伝える」については、「ちゃんと伝わったかどうかは、伝達手段の良し悪し(プロセス)ではない」。伝える側と受け取る側の「状態」が大事だという。たとえば、双方の知識の差や受けての能動性などによって、伝達される情報量は大きく異なる。

 本書には著者の研究成果が、図や実例を交え、噛んで含めるように紹介されている。盲学校と出会った収穫だ。ジャンルを越境することでしか得られない気付きもあるのだ。

 私も主戦場が演劇と漫画の両方にまたがっているため、日々驚きがある。演劇ではとっくに解決されていることが漫画ではまだ解決されていない、ということもある。だから、演劇で学んだことを漫画で実験したりすると、たまに斬新なことができる。