教訓 便利・安易の逆を行け(2008年9月)


 コンビニやファーストフードは便利だが、最近増えすぎではないか。競争も激し過ぎるとひずみが出る。各社限界までコストダウンをすると、次はパートやアルバイトなど「安い労働力」を求める。そして、遂には正社員の人件費まで圧縮 する方法を考えることになる。

 NHK「名ばかり管理職」取材班『名ばかり管理職』(NHK出版、735円)には、入社1〜3年でチェーン店の店長(管理 職)になった人の実例が挙げてある。管理職といっても権限がない。にもかかわらず、残業手当が付かない。経営者は単純に人件費の節約のためだけに、”新人”を管理職にしているのだ。

 チェーン店の店長は仕事がマニュアル化されている。だから、短期間で“管理職”になれるのだが、本来マネージメント力はそんなに安易な方法で身に付くものではない。

 社会全体が、便利・安易を求めて、それが人材育成にまで及んでいる。商売を志す人は、チェーン店に入って手っ取り早く儲けることを考えるのではなく、じっくりと“自分流”を編み出す気概を持ってはどうだろう。

 人材育成と同様に手間を省けないのが食品製造である。近年は食品が工業製品の感覚でコストダウンを強いられている。ところが、相手は動物や植物なのだから、機械化による大量生産はできない。コストダウンには限界がある。結局、業者は偽装などの安易な方法に走り、消費者の信頼を損ねる結果になっている。

 蔦村彰よし『完全国産主義』(東洋経済新報社、1575円)は、「北海道ワイン」の社長の手になる奮戦記だ。同社は国産のよい材料だけで安価なワインを供給している。企業努力の割に利益は少ないと察せられる。しかし、やりがいを持って取り組んでいるから、本全体を熱いメッセージが貫いている。若い社員も「目先の利益よりも、大きな目標をめざす」人ばかりだという。人材も育っている。

 消費者も食品に関しては、便利・安易を減らして手間をかける覚悟がいる。今がよい機会だ。みんなで頑張れば、きっと食料自給率も上がる!