教訓 最下位の戦い方がある(2009年1月)


 私は40歳までカミさんに食わせて貰っていた。ヒモである。仕事は一応物書きだったが、マスコミの底辺で、やたらと痛い目に遭ってきた。

 お陰で度胸は付いた。悪運も強い方だと思える。一方で、金のないことがどれほど辛いか骨身に沁みて分かっているから、臆病でもある。

 西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(理論社)には、仕事をする上で、最も大切なことが書いてある。著者の出発点はここにある。「どん底で息をし、どん底で眠っていた。『カネ』がないって、つまりはそういうことだった」

 とことん金がないと、人間関係も家庭生活もうまくいかない。仕事や人生は金だけではないが、最低限の金がなくては、居場所もなくなる。

 著者は学生時代イラストレーターを目指して上京し、予備校に入った著書は周囲とのレベルの差にがく然とする。  「『最下位』の人間には、『最下位』の戦い方ってもんがある」と、ばんばん売り込み、編集者の要求に応えてエロマンガも描いた。「わたしに言わせるなら、プライドなんてもんはね、一銭にもならないよ」

 著者はギャンブルに打ち込んだ時期がある。「ギャンブルっていうのは、授業料を払って、大人が負け方を学ぶものじゃないかな」。トータルでの負け金は、私より彼女の方が少し多い。悔しい。「負けてもちゃんと笑っていること」は含蓄のある教えだ。

 ギャンブルも仕事も勝つ気で行く。だが、実際には負けることの方が多い。絶対絶命をどうやって凌ぎ、土俵を割らないように粘るか――。理屈ではなく、痛みを伴って身体で覚えていないと反応できない。

 著者は頭で考えたことは信用していない。「自分の目で見て、手で触って、足で歩いて、そして食べて、知ろうとする。何でもこの体を使って、丸ごと知ろうとする」

 元手がかかっているから西原作品は面白い。

 「自分探しの迷路は『カネ』という視点を持てば、ぶっちぎれる」という考え方にも賛成だ。