教訓 顧客の需要は現場で拾え(2009年10月)


 自宅近くのスーパーが、2年ほど前にレジを総入れ替えした。レジ係が、客の支払った札を挿入口に入れると、お釣りが自動的に出てくる新鋭機だ。

 だが、レジ係が自分でお釣りを数えていた時より、タイミングが3秒ほど遅れるのである。お客もレジ担当者も明らかに焦れている。

 レジは10台以上あり、1回3秒のロスを人件費と考えると、1日数千円の損に相当する。加えてスキルの高い従業員の向上心もそいでいる。マイナスの方が大きいとしか思えない。

 店側はお客にカードを使わせようという意図もあったのか。だが、その思惑も現段階では外れている。恐らく、釣り銭の誤差に頭を悩ませてきた本部のお偉いさんだけが満足している。

 パコ・アンダーヒル著 鈴木主税・福井昌子訳『なぜこの店で買ってしまうのか〔新版〕』(ハヤカワ新書、1400円)
は、消費者の行動を足で調べて書いた本だ。著者は米国にあるマーケッティング・コンサルタント会社の代表。1999年に出た本書が話題になった。今回はネットショッピングなど、状況の変化に合わせて、大幅に書きかえられている。

 例えばこんなデータはクイズ番組のネタに使えそうだ。試着室に持って入ったジーンズを実際に買う割合は、男が65%、女が25%。ショッピングモールの家庭用品の店で、客が買い物カゴを使う割合は8%。カゴを使う客が実際に品物を買う割合は75%。カゴを使わない客が品物を買う割合は34%。著者は科学といっているが、観察結果を数字にしたから科学に見えるだけで、私たちの仕事でいうなら取材活動である。

 衣料品店では店員が声をかけると、客が商品を買う確率が1.5倍になる。その客が試着室を使用した場合には2倍になる。自分の経験でもそう感じる。

 衣料品店では、試着室の場所や雰囲気も大切だと説いている。だが、日本ではデパートを除き、あまり重視されていないのではないか。著者はいう。「試着室の内装は理想の寝室をイメージしたものにすべきだ。照明は誰もがリッチにみえるように」。もっともな意見だ。