教訓 成功体験は捨て 変化せよ(2009年11月) 

 JR福知山線脱線事故に関連して、JR西日本の閉鎖的な組織風土が指摘された。

 問題は同社だけではない。日本中閉鎖的な組織だらけで、徳川260年の天下泰平を思わせる。だが、果たして世は泰平なのか。私は「諸行無常」を肝に銘じる時代だと考える。物事は一瞬一瞬変化する。私たちは自ら変化することで対応するほかない。

 柳井正著『成功は一日で捨て去れ』(新潮社、1400円)には、共鳴する箇所が多い。著者はユニクロの経営で知られるファーストリテイリングの社長。積極果敢な生き方が見た目に現れている。私はかねてより、成功者の最大の欠点は自分の成功体験を捨てられないことだ、と考えてきた。柳井氏はいう。

「本当は大した成功でもないのに、自分が相当大きなことをやり遂げたような錯覚をしているのだ。これらは決して『成功』と呼ぶべきものではなく、むしろ『成功という名の失敗』をしたのではないだろうか」

 著者は一度会長に退き、若手に社長を託したが、再び社長として陣頭指揮を執っている。彼は創業社長にふさわしく時として賭けに出る。だが、若手は安定志向で賭けを回避する性向があったらしい。私が柳井氏の次の考え方を支持する。

「買っていただいた後に、売れる(売れた)要素を分析するのは容易だが、買う(買っていただく)」前に、つまり商品を企画する段階で、売れる要素を予測するのは不可能なのである」

 経済が右肩上がりの時なら、マーケッティングの通りにやれば売れた。だが、今は違う。マーケッティングをにらみながらも、最後は野生の勘に賭けるほかない。

 安定志向の人は過去の成功体験(例)に頼る傾向がある。物を売らなくてはならない相手は、現在あるいは未来にいるのに。

 局面によっては過去の成功体験を思い切りよく捨てないと人も組織も硬直化する。戸部良一他『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫、762円)を読むと、日露戦争の成功体験を捨てられずに硬直化した組織のありようがよくわかる。戦う相手は米国であることがすっぽり抜け落ちているような作戦が出てきて、どきっとする。