教訓 ヒネリの効いた補助線を引く(2009年2月)


 テレビによく出ていた時期がある。番組によっては、著書が驚くほど売れた。世の中やってみなければわからないこともある、と思ったものだが、広告業界の人には、それは常識だったようだ。

 岸勇希『コミュニケーションをデザインするための本』(電通)を読むと、その事情がよくわかる。この10年で人間が消費できないほどの情報が溢れかえる社会になった。もうテレビの宣伝だけでモノが売れるわけではない。複数のメディアを効果的に組み合わせる宣伝手法を「クロスメディア」という。

 広告業界では「知らせる」役割と「理解してもらう」役割は異なる。前者はテレビの得意分野。後者はインターネット。テレビCMの下部に窓が付いていて「検索」の文字をクリックするものがある。テレビとインターネットの両方で広告すれば効果が高いと考えられている商品が使う手法だ。どんな番組に、どんなCMを流し、他のどんな広告と組み合わせるか、が腕の見せ所となる。それがクロスメディアという考え方だ。

 冒頭の例は、私と著書とテレビ番組がクロスした結果だったのである。

 幾何の問題を解くとき、補助線の引き方がポイントだったりするが、CMを創る作業はそれに近い。実は、脚本を書く仕事も同じだ。ヒネリの効いた補助線を引いて、なおかつ観る人の腑に落ちる解を見つける執念がいる。

 新しいモノを創って売るには、不可能を可能にする情熱とヒネリの効いた補助線の両方がいる。能力の限界を超えて、なおかつ遊び(余裕)のある精神を保てるか、が問われる。

 同書には「デザインすべきは“仕組み”ではなく“気持ち”」や「誰もがなんとなく感じているコトを“可視化”する」など、今、商品開発や物を売るための知恵が詰まっている。

 スランプに苦しんでいる人には、西山昭彦『人生の転機 会社生活を成功に導いた18の言葉』(新潮新書)がいい。18人の決してエリートとはいえないサラリーマンたちが、現場で泥にまみれながら掴んだ言葉が胸を打つ。