教訓 客に新たな選択肢を提示せよ(2009年3月)


 私は脚本のアイデアに詰まると、よく東急ハンズを散歩する。抽象的な考えをまとめるには、自然の豊かな場所を散歩するのがいい。だが、細部で閃きが必要な時には、具体的なモノに接するとよい。
 東急ハンズには、膨大なモノが並んでいる。こんなもの何に使うのだろう」と理解に苦しむ商品まで置いてある。加えて、客筋がユニークなので、お客を観察していても閃くときがある。同店には、随分お世話になっている。

 昔日の勢いこそないが、今でも提案型で独自性の高い店舗であることには変わりない。
和田けんじ著『東急ハンズの秘密』(日経BP社、1400円)を読むと、同店が何故アイデアの宝庫になったのかがよくわかる。著者はバイヤーだった人だ。


 今はモノが売れない。それでも人は最低限必要なものは買う。必需品が売れ筋商品となる。各社合理化をすれば、どこも同じ品揃えになり、店に特徴はなくなる。次は価格競争が始まるが、これが経営を逼迫させる。著者はそこには商売が生き残る道はないと考えている。

 東急ハンズは差別化に成功した。理由は、販売のプロが作った店ではなかったことだ。素人だからできることを武器にした。「売る側の目線」ではなく「買う側の目線」を重視した。

 店員を売り上げ実績だけで評価しない、という考え方も導入された。同店には「何を仕入れたか」「どれくらいの種類を仕入れたか」「新しい取引先をどれだけ開拓したか」という評価基準がある。チャレンジした回数が重要だった。
「東急ハンズが『売れ筋』に固執せず、幅広く専門的な品揃えを徹底するのは、他の店舗では扱っていないような商品までそろえることで選択肢を広げ、お客さまに『新しい生活スタイル』を発見していただくためです」

 消費者の生活スタイルは日々変化する。だから「売り場は、「これで完成!」ということなどありえません。常に新しい商品を探し続け、品揃えを新しくしていくことで、『生きた売り場』を作ることができます」

 この心得を維持するには厳しい切磋琢磨が必要だ。