教訓 演説は朗読劇のように物語れ(2009年4月)


 オバマ大統領ほど見た目(=非言語情報)の重要性を世界中に伝えた人物はいないだろう。彼の演説にはうならされた。自信に満ちた表情、仕草、声質、態度――。どれをとっても彼のメンタリティの強さの裏付けになっている。

 一方、対立候補のマケイン氏やヒラリー氏も、テレビ討論会でイライラしたり、相手の目を見て話さなかったり、悲壮感漂う顔をすれば、不利になることはわかっていた。だが、プレッシャーに負けて上手く振る舞えなかったのである。

 私のいう「見た目」とは、知力、精神力、体力を総合した、人間の本質的な能力であることが具体性を持って伝わった。オバマ大統領に取りあえずは感謝である。付け焼刃で、見た目がよくなるなら、俳優も演出家も苦労はない。

 東照二『オバマの言語感覚』(NHK出版生活人新書、700円)は言語学者による、オバマ演説の分析である。言語学の専門家はこう分析するのか、とスリリングに読んだ。

 会話には、情報伝達を目的とする「リポート・トーク」と親密な関係性構築を目的とする「ラポート・トーク」がある。私たちは、前者より、もっと心理的、情緒的で、共感を誘う後者に感銘を受け、惹かれているという。オバマは後者に長けていた。

 テレビの公開討論会は大統領選のハイライトだ。“make sure”は「確実に〜する」、“I know”は「私は知っている」という意味である。3回の討論会で、マケインは前者を10回、オバマは、“making sure”を加えると59回使っている。一方、後者は、オバマが2回しか使っていないのに、マケインは40回も使っている。オバマの圧倒的自信がうかがえる。

 著者は、演説のコツを「物語を語る」ことだという。大事なのは、次の三つ。@個人の顔を出すことA人間味を出すことBドラマ性を入れて、劇的な流れを作ること。――これはほとんど舞台を作る能力である。


 ちなみに、オバマは、グラミー賞最優秀朗読アルバム賞を受賞している。