教訓 現場は実例で経営層を動かせ(2009年7月)


 
小さな会社を経営しており、たまに経理担当者にアドバイスをする。「経費節約は大事だけど、そこを削ったら現場のスタッフはやる気をなくしてしまうよ」。一見無駄に見える経費でも、そこを倹約すると会社全体の歯車が狂ってしまうという部分がある。やる気に関わることだから、理屈ではない。経営者が現場の気持ちを察しながら、舵取りをする部分だ。

 どこの会社でも、現場と経営層の意見は対立するものだ。アル・ライズ&ローラ・ライズ著 黒輪篤嗣訳『マーケティング脳VSマネジメント脳 なぜ現場と経営層では話がかみ合わないのか?』(翔泳社、1680円)では、その理由を考察している。

 著者は、マネジメント(経営層)を論理的、分析的に考える「左脳タイプ」、マーケティング(現場)を直感的、総合的に考える「右脳タイプ」に分けている。分け方自体はちょっと単純化し過ぎている嫌いがある。が、示唆に富む指摘が詰まっていることは確かだ。

 著者はマーケティング(現場)コンサルタントである。現場は経営層の承認を得なくては何もできない。だが、経営層は現場の原則を理解していないことが多い。現場の声を経営者にわからせるために、実例をたくさん並べている。何故、理屈ではなく実例で語るのか。消費者の心は、理屈では動かないからだ。

 経営層の「理にかなった」戦略のせいで失敗した例、現場の非常識とも思われる作戦で成功した例が、ウイットに富んだ語り口で語られている。

 経営者は一度掴んだ顧客とは一生涯付き合おうとするものだ。だがその考えを捨ててみては、と著者はいう。衣料メーカー、リーバイスは1996年から10年余りで売り上げを大幅に落とした。という事例が紹介される。「不振の一因は、年配者がリーバイスの服を着ていることにある。子どもたちは親と同じ服を着たがらないからだ」

 著者はリーバイスにこんな提案をする。「ジーンズのウエストサイズをすべて三二インチ以下にしてはどうか」と。「中年太りをした方々には、ラングラーのジーンズで歩いてもらおう」と。茶目っ気もある。