教訓 イノベーションのための軍師を登用しよう(2009年8月)


 「日本の自動車産業は、十五年で壊滅状態になります」−。『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』(ダイアモンド社、2,400円)の著書。妹尾堅一郎氏は冒頭からショッキングなことをいう。

 詳しい説明は省くが、ガソリン車から電気自動車の時代になれば、日本の得意な技術が生きなくなる、というのが理由だ。

 さらに著者は、日本の企業の危機は技術だけの問題ではないと警鐘を鳴らす。

 今後は技術で勝っても、事業で勝てる時代ではなくなる。たとえば、半導体の特許数では、日本の企業群は世界のトップ水準である。

 だが、日本の大手メーカーはどこも大赤字で、特許数の少ない米国のインテルが大きな収益をあげている。野球に例えれば、日本チームは17安打、20残塁でゼロ封されている状態だ。

 また、かつては日本が世界シェアをほぼ独占していたDRAMメモリー、液晶パネル、DVDプレイヤーなどは、グローバル市場で大量普及が進み、2007年には20%以下に落ちている。技術で勝って事業で負けたのである。

 著書はいう。従来は「インベンション(発明)=イノベーション(新価値の創出)」だったが、新しいモデルは「イノベーション=インベンション×ディフュージョン(普及)」である、と。

 日本企業の問題点はどこにあるのか。たとえば、日本企業は「技術研究」「製品開発」「普及」という三つのセクションの壁が閉じている。壁を開いて、有機的に機能させる軍師的存在が必要なのだ。

 私見だが、日本には軍師的資質の持ち主は多いのではあるまいか。故・田中角栄は総理より幹事長のほうが面白い、といっていたぐらいである。

 私は軍師をきちんと登用し、評価すれば、状況は変えられると思う。

 今回の総選挙、麻生太郎、鳩山由紀夫の両党首の争いと見ると淡白な印象だ。だが、古賀・細田寛之VS小沢一郎という軍師の戦いと見立てると、日本という国を考える手掛かりが増える。