教訓 節約は精神の贅沢である(2010年1月)

 昨年暮れの「事業仕分け」の光景は、一刀両断、容赦なし、という感じが見ていて切なかった。言葉使いや言い方に一工夫あれば、印象は違ったのではないか。相手には目上の人もいたのだし。

 年末年始で、普段疎遠にしている友人とたくさん会った。景気を反映して、どの会社も色々な経費節約の指示が出ている。なかには、そのやり方はひどい、という会社もある。友人たちも、経費削減をやる気でいる。だが、先に感情を逆なでされると、仕事が楽しくなくなる。

 人間は何よりも感情の動物である。実際、気持ちよく、会社の要求以上に経費節約に務めている友人もいるのである。


 林望『節約の王道』(日経プレミアシリーズ、780円)には、節約法が説かれているが、読んでいて豊かな気分になれる。「節約は精神の贅沢」という副題を付けてもいいぐらい。


 著者はいう。「節約は、ちょこちょこチマチマとしたノウハウの謂いではなくて、もっと生活全体、あるいは生き方そのものについての自省的思惟でなくてはならぬ」。気持ちに余裕があれば、節約も思索の対象になる。

 節約はけちけちすることではない。「『自分の軸』を持って、衣食をまかなう、物を選ぶ」ことだ。「自分の軸」のある提案がいくつも出てくる。例えば「病気にならないのが何よりも節約」。そのためは、自分の身の丈に合った生活(食生活、飲酒、早起き、適度な運動、消費行動など)をするのが肝要。自省的に生きれば病気になる可能性も減る。

「無駄にしていけないのは、お金だけではありません。人が生きる上で一番無駄にしてはいけないのは、やはり時間だと思うのです」

 他にも「ご馳走するときは値段よりも味優先で」「旅行ガイドにある料理店には行かない」「ホテルは素泊まりに限る」など。

 仕分けや経費削減も、“軸”があれば、どこを削り、どこに充てるか、方針も明確になり、言い方にも節度が出よう。

 同書は次の一文で締めてある。「著者謹んで識す」。「謹んで」という品のある言葉が似合う本だ。