教訓 広告は商品がヒーローだ(2010年10月)

 デイヴィッド・オグルヴィ著『「売る」広告』(海と月社、2800円、山内あゆ子訳)は、1983年に出版された名著の新訳版である。著書は「現代広告の父」と呼ばれる。
最近の日本では新味のある広告が少ない。思わず「すげえ!」と唸るテレビ
CMや、「うまい!」と膝を打ちたくなる雑誌広告に出会うことはまれ。
理由は「手法が使い尽くされた」「広告費が削減されている」などいくつか挙げられる。
だが根本の理由は役30年前に著書が喝破している。
「今も昔も広告界の二流以下の片隅には、愚か者どもが巣食らってきた。
彼らは風変わりなユーモアやエキセントリックなアートディレクションを商売道具にし、リサーチを侮り、自らを天才と称してはばからない」「その口先のうまさに煙に巻かれるようなクライアントに彼らが引き寄せられるからに他ならない」
 激しく厳しい言葉だが、正鵠は射ている。
 オグルヴィにとって広告とは人を動かすことである。魂を揺さぶることである。決して小手先で仕事をしない。
 彼は「予習せよ」という。「ビッグアイデアが必要」とも。ロールスロイスの広告を作る時、彼は3週間資料を読み込む。そして次のコピーを思いつく。「自足100キロで走行中の新型ロールスロイスの車内で一番の騒音は電子時計の音だ」
 プロの言葉には力がある。「商品をヒーローにせよ」「リサーチによれば、有名人を使ったCMは消費者に実際に商品を買わせるという点では平均以下なんだ。
それでも『どうしても』有名人を使うかい?」
 著者は経験から発せられる肉声と250を超える図版を総動員して自分の熱い思いを伝えている。
自信があるから、傲慢さゆえに失敗したという告白も何度か顔を出す。
結果として一冊丸ごと彼の“広告”になっており、本はロングセラーになった。