教訓 若者はダメという大人がダメ(2010年2月)

 「近頃の若者はダメ」は人類始まって以来、ずっと語られてきたことだと思しい。私が若い頃は、三無主義(無気力・無関心・無責任)といわれたものだ。私たちが大人になる時代には、国が滅びそうな言われ方だった。
 原田曜平著『近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と新村社会』(光文社新書、820円)は、若者1000人に聞き取り調査をして書かれた本だ。著者は32歳で若者に共感を持っており、新しい世代の登場に期待さえしている。決してダメとはいっていない。
 著者は「はじめに」で「若者はなぜ過剰に空気を読むようになったのか?」と語りかける。理由はこうだ。ケータイが普及し、携帯メールが重要な通信手段になった。そのため、若者は離れた友人との“距離”が近くなった。すると、一度日本で廃れつつあった、お互いを監視しあう村社会の新しい型ができた。その結果、読空術(空気を読む技術)が大事な世代が生まれた。
 私も東京、神奈川、福岡と三つの学校で教え、若者と格闘しているから、その事情は皮膚感でわかる。だが、一緒に演劇や漫画を創っていると「近頃の若者も見どころがある」と実感している。著者の感覚に近い。いつの時代も若者は“新しい”。同書には、私の知らない若者情報がたくさん書いてあり、学生との接し方に、いくつもの教示を得た。若者との付き合い方に苦しむビジネスマンにも役立つはず。
 「メアドより電話番号を知っているかが、親しさの境界線」や、場所によってキャラクターを使い分ける「キャラ変え」をやっているなど、なかなか洒落たワザを使っているではないか。
 ところで、自分が中年になり、私も含めて、ダメな大人があまりにも多いことを知った。私たちが若い頃三無主義だったから、ダメな大人になったのではなく、実は大人一般が昔からダメだったのである。人類始まって以来の問題は、むしろこちらの方だったに違いない。
 若者は“大人社会の産物”である。自分で作った実態とは、真摯に向き合うのが、大人の態度のはずである。