教訓 信頼はタイミングにあり(2010年3月)

 デービッド・マイスター他著 細谷功訳『プロフェッショナル・アドバイザー』(東洋経済新報社、2400円)の、原題は「信頼されるアドバイザー」。一冊丸ごと信頼について書かれている。
 相手の信頼を勝ち取れば仕事の9割は達成したようなものだ。
 九州大谷短大に勤めている時、仏教学科の故・甘城孝麿先生から教わったこと。「聖(ひじり)」は「日」を「知る人」という意味。自分が知っていることを、「いつ」言えばいいのかわかっている人のことだ、と。
 同書にはこう書いてある。「多くのことにいえることだが、タイミングがすべてなのである。成功をおさめるアドバイザーはいつクライアントをわずらわせ、いつわずらわせてはならないかというツボを心得ている」
 難しいことだが、そこに向かって努力することは、自分を磨くことになる。
 聞き上手がやらないこととして、こんな項目が挙げてある。「話に割り込む」「あまりにも早く返事をする」「一足飛びに結論に進む」…。会議でやりがちなことばかり。
 著者の一人はこんな工夫をしている。「常にペンを右手で(彼は左利きである)もち、少なくともそれを反対の手に変えるまで十分な時間をかけて待つと自分に言い聞かせる」。
 このメソッドは身体を使うから有効だ。頭で考えたことが、一度身体を通過することで、より現実に近づく。頭でっかちの人は非効率的だと考えるかもしれない。が、実はこちらの方が効率的である。経済活動といっても、実は“生身の人間”の営みに過ぎないのだから。
 映画「インビクタス」を観た。南アフリカ共和国初の黒人大統領、ネルソン・マンデラと同国代表ラグビーチームの主将、フランソワ・ピナール(白人)の実話に基づいた作品である。マンデラはピナールを信頼し、ピナールは信頼に応えW杯で優勝する。対立する黒人と白人が一つになった瞬間だ。
 マンデラは、27年間投獄されており、その間自分を支えてくれた詩句を、絶妙のタイミングでピナールに語る。
 信頼のポイントはタイミングだ。