教訓 歴史的転換を直視せよ(2010年5月2日)

 100年に一度の不況といっても、大正時代のそれと現代を単純には比べられない。日本経済はどんな状況で、大手各社はどんな経営努力をしているのか。60名以上の日経新聞記者が取材した現場報告が日本経済新聞社編『大転換 危機に立ち向かう企業』(日本経済新聞出版社、1600円)である。
「これは単なる不況ではない」という仮説から始まった特集企画が紙面で連載を続けるうちに「歴史の転換点に立っている」という認識に変わる。スリリングな読み物でもある。

 読者は直視したくない深刻さをまず知る。”メード・イン・ジャパン”の技術は海外勢に抜かれ最早日本市場さえ脅かされている。たとえば、太陽電池では日本は先進国だとばかり思っていたが実情は違った。2008年のランキングでの日本のトップはシャープだが世界市場では2位から4位に後退している。”世界の伸び”に追いつけないのである。注目される電球も、シャープと東芝で激しい値下げ競争に晒され、利益を生む産業に成長するかも見当がつかない感じだ。

 一方では、希望を与えてくれる報告もある。三菱自動車は「世界初の電気自動車量産を目指す。トヨタがハイブリット車「プリウス」でやりとげたように「世界初」には魅力がある。電気自動車を社会インフラに組み込む試みが沖縄で始まった。連続走行距離が200キロメートルに満たないのが電気自動車の欠点だ。しかし面積の狭い沖縄ではそれが致命傷にならない、と。

 同書では「種まき型経営者」を評価している。10年前に種をまき、今その仕事が実を結んでいる経営者たち。伊藤忠商事の丹羽宇一郎氏は有名だが90年代後半の建機不況の中、投資を続け、ITを駆使した基幹システムをつくったコマツの安崎暁氏の名も挙げてある。