教訓 気にするな!前を見よ!(2010年6月27日)

 学生時代、インドネシアを貧乏旅行した時のこと。「ティダ アパ アパ」というインドネシア人の口癖をよく耳にした。「気にしない」という意味である。それを聞くと、随分気が楽になる。熱帯の人たち特有の楽天性を感じた。
 日本にもペギー葉山の歌に「ケ・セラ・セラ」というヒット曲がある。意味は「なるようになる」。もと歌は、ヒッチコックの映画『知りすぎていた男』でドリス・デイが唄ったものである。語源はスペイン語らしい。
 ということは、弘兼憲史『気にするな』〈新潮新書、680円〉は、世界中の人が求めている気の持ちようを語っていることになる。とても難しく、大切なことを平易に説いてある。
 著者は、漫画界随一のハード・ワーカーである。漫画の締め切りが月に6本。活字連載が週刊誌2誌。ラジオレギュラーが週2回。それ以外にも単発の仕事は数知れず。
 目先の締め切りに向かって、集中するほかない。「自分で『今週は出来が悪かったな』と落ち込むこともありますが、すぐに次の締め切りがあるので、そんな気分を引きずっている暇がないのです」
 日本を包んでいる閉塞感には、素直に頷けないという。国や社会や会社……結局誰かのせいにしているのでは、と。まず、自分で解決できる問題はあり、少しでも事態を良くする道はある。そこに手をつけずに、不平不満を言っても始まらない、と。
 著者の言葉は風通しがいい。自説に「賛成できない」という人には、「そうですか、としかいいようがありません。他人の人生観を批判するつもりがないからです」
 本書を読んで以来、あれこれ気にしている若いスタッフに何度いったろう。気にするな、前を見よ!