教訓 賢者の盲点を衝く戦略を待て(2010年7月)

 サッカーの試合では、名選手は心憎い場所でボールを待ち構えているものだ。選手は皆、味方と敵のフォーメーションから、次の展開を予想し、ゴールまでのストーリーをつくって反応していく。
敵が予想できなくて、なおかつ大きな目で見ると理にかなった場所にいるのが名選手だ。

 楠木建『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社、2800円)を読むと、その事情はビジネスも同じであることがわかる。著者は経営学者で本書は成功例のケーススタディ。
優れた経営戦略には「筋のよいストーリー」があるという。著者の言葉を借りれば、サッカーの名選手は「筋のよいストーリー」を持っているということになる。

 マブチモーターは「モーターの標準化」で成功した。モーターは部品なので、各メーカーの注文に合わせて特注品を作る宿命があった。同社は、「モーターの基準に合わせて商品を作ってほしい」とメーカーに掛け合ったのである。この方法なら不良品も在庫も減らせる。大幅なコストダウンが図れるから、お互いにとってメリットがある、と。
 ガリバーインターナショナルは、中古車販売の回転率を上げた。買い取った車を、展示場で小売せずに、そのままオークションで売る方法をとったのである。同社は在庫リスクからも解放された。
 著者は「賢者の盲点を衝く」ことが大事だという。その業界にどっぷり浸かっている“賢者”の目には愚かに見えても、大きなストーリー全体から見ると理にかなっている発想をしよう、と。“コロンブスの卵”といってもよい。
「筋のよいストーリー」を作ることは困難だ。先日のW杯でも、何人ができていたろう。本書を読むと、W杯で好プレーを見たときと同じような元気がでる。