教訓 人物への違和感力を身に着けよ(2010年8月)

 新聞の人生相談を読むのが好きだ。回答者にワザがあると、生々しくならないのがよろしい。
 江上剛『もし顔を見るのも嫌な人間が上司になったら――ビジネスマン危機管理術』(文春新書、730円)も人生相談形式の本である。大手銀行での実体験に基づいた意見なので、こちらは生々しいが、随所にワザが光っている。
 タイトルになっている悩みは、ビジネスマンなら多かれ少なかれ経験していることだろう。著者は覚悟を決めて戦った。「上司と戦い、自由を勝ち取る気力がないなら、彼がいる間は、適当に仕事をして、とにかくうつ病にならないように気をつけなさい」。
 大手銀行で勝ち凌ぐ人は自信がある。私は発展しない理由がいくつもある零細企業でばかり働いたので、少し意見が異なる。結論はできるだけ先送りして、もう無理だと思ったらさっさと辞める、である。給料の安い零細企業は、大企業と異なり、辞めてもあまり惜しくないので。
 他の悩みは―。上司から不祥事の隠ぺい工作を頼まれた。手柄を上司に横取りされた。女性社員を注意したら、集団で無視されるようになった……。
 理屈で割り切れないトラブルに、著者は逃げずに答えている。組織が大きくても小さくても、問題の発端は麻痺や慣れである。
 著者は、違和感力を身に付けよ、と説く。著者が支店長を務めていた時、明るい男が赴任してきた。着任の挨拶を聞いて、著者は「あれ?」と違和感を覚える。流暢過ぎるし、前向き過ぎる。しばらくは重要な仕事を任せない方針をとった。やがて、男が前任店で不正をやっていたことが発覚する。
 本来なら緊張しているはずの場面で、調子が良すぎる人物は要注意である。