教訓 投資とギャンブルは別物(2010年9月)

 マウスをクリックして株取引をする個人投資家の多くは、ギャンブルに近い感覚でやっているのではなかろうか。
「儲かった・損した」だけでは投資とはいえない。
 今月のお勧めは、スコット・パタースン著、永峯涼訳『ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち』(角川書店、2200円)である。
クオンツとは、金融を数理的に研究・分析し、市場を操る数学の天才たちのこと。
クオンタテイティブ(数理的な)の略語である。
本書は1970年ごろから台頭し、2008年のリーマンショックで没落するクオンツたちの思考法や生活を活写したノンフィクションである。
 クオンツの多くはギャンブル好きだった。数学の天才だけが使えるカードゲームの必勝法がある。
彼らはそれを金融市場に転用したのだ。
クオンツたちはウォールストリートというカジノで勝ち続けた。
 さらに、彼らは価格の異なる複数の金融商品を抱き合わせにして市場を複雑にした。
難しい数式を操れる数学の天才が勝つ金融市場をつくった。
数学的に整理され、システム化された世界ができそうだ。
 しかし、サブプライムローン市場は崩壊した。
「クオンツの誰ひとりとして、来るべき列車の衝突事故を予測することができなかった。
彼らのバカ高いIQ、数々の学位、感動的なまでの博士号、市場で起こるあらゆる細かい動きを予測して得た何十億ドルもの富、そしてありとあらゆる統計学上のねじれを研究した、何十年分かの年月をもってしても」
 市場を動かしているのは、人間という不可解な動物だったということだ。
多くのクオンツは、社会性の欠けた頭でっかちだという。
将来性のある事業、潜在力の割に株の安い企業に資金を提供することが、投資だという原点に立ち返れないものか。