戯曲「すずらん通り 里中書店」冒頭

すずらん通り 里中書店
竹内一郎

■登場人物

有村 良子    里中家長女
里中 隆之介   同 長男
里中 由紀子   同 末女

遠州 康彦     歴史小説家。里中書店の客
五十嵐 圭    「里中書店」のアルバイト。
秋野 順子    生前の鷹男の若い恋人
臼井 怜治    不動産会社のデベロッパー
館林 瑞希    臼井の恋人
野乃村美佐    葬儀屋の社員

古書店『里中書店』の外。
店の表に、『臨時休業』の貼紙。
遠州康彦が、貼紙を見ている。
遠州はステッキを持っている。

遠州 (張り紙を読んで)……臨時休業? (独り言)どうなってんだ……。(携帯電話が鳴る。取りだす)はい、遠州康彦です。……だから、すぐ書くと言っているでしょう。……確かにいったけど、作家のすぐは、いつかわからんということだよ。私は、東京の神田神保町にきている。明治時代の歴史資料なら、ここという古本屋の前にいる。静岡から新幹線に乗ってだ。その店が、臨時休業だ。店が開くまでは、資料が整わんということです。(電話を切る)

里中隆之介がやってくる。
隆之介は携帯電話で話をしている。
電話の相手は、隆之介の借金相手。

隆之介 ……ええ、こっちも心苦しいんですよ。……だから、返さないとはいってないじゃないですか、返せないんです。……ええ、でね、なんとか、メドがつきそうなんです……。これからの話しあいでね……。うまくいけば、きっちり、返済できますから、もう少し、もう少し待ってください……。

電話を切る隆之介
ため息をつき、それから、髪の毛をかきむしる。
店に入ろうとする隆之介。
遠州が隆之介を呼び止める。

遠州 もし、あんた。
隆之介 (気づかない)……。
遠州 おーい! 兄ちゃんよ!
隆之介 (驚いて携帯を落とす)ああっ!!
遠州 店の人?
隆之介 い、いいえ。ああ、店? 店はですね、今、臨時休業中です。

店に入ろうとする隆之介。
ステッキで、隆之介の行く手を止める遠州。

遠州 それは、見ればわかる。なぜに、休業中?
隆之介 店主が亡くなりまして。
遠州 (驚く)何!!

店に入ろうとする隆之介。
再び、ステッキで、隆之介の行く手を止める遠州。

遠州 ちょい待ち。
隆之介 あの、この店のお客さんですか?
遠州 ……あんたは?
隆之介 店主の息子です。
遠州 ……それで、この里中書店は、いつから営業する?
隆之介 それが、目下検討中でしてね。
遠州 どういうことだ?
隆之介 店を残すか、潰すか、決めようとしているところなんです。親父の子供たち……。つまり、ぼくと、兄妹たちの間でね。
遠州 ……残すか、潰すか……。
隆之介 そういうわけで、今日は、店、開きませんので。この先もどうなるか、わかりませんので。

店に入っていってしまう隆之介。
『臨時休業』の貼紙を剥がす遠州。
貼紙をびりびりに破く。
遠州は、腹ただしげに、店のシャッターをステッキで叩いてから、去っていく。

暗転

『里中書店』の奥にある居間。
有村良子は棚の上に鷹男の遺影を飾っている。
葬儀社の社員・野々村美佐は、ダンボールに葬儀で使った一式を詰めている。

良子 すみませんね。葬祭場でやれば、こんなお手間も取らせなくて済んだのに。
美佐 いいえ。私、地元の商店街の結束が強くて、町内会館で葬儀をやるというの好きなんです。うちのような業者が入っても、手作りの温かさが出ますし。
良子 そうですね。ご面倒をおかけしました。父も、いい葬儀だったと満足していると思います。
美佐 お父様は、優しい方だったのではありませんか?
良子 優しいといえばそうですけど、子供の私たちにとっては頑固というのが一番フィットします。
美佐 お店の古本、とても奇麗に並んでいて。並び方が美しいんです。心をこめて、並べていることが、とても楽しいっていう感じの……。
良子 そうですか?
美佐 私、学生時代、古本屋でアルバイトしていたんです。ちょうど、こんな端正なお店でした。店長がとても優しい方で、一度も大声を出すのを聞いたことがありませんでした。
良子 うちの父も大声を出したこと、なかったなあ。
美佐 私、古本の匂いが好きなんです。新刊もいい匂いだけど、ちょっとツンとくる感じがあるでしょう? 古本の匂いって、柔らかいんです。
良子 柔らかい? そんなこと考えたことなかったわ。ここ神田神保町で育つと、古本の匂いは、カビ臭いとしか思わなくなるわ。
美佐 そうかもしれませんね。すみません。いらないことをいいました。(パッキングが終わった様子)では、私はこれで。
良子 どうもありがとうございます。(頭を下げる)
美佐 本当に、ご愁傷様でした。

美佐は、ダンボールを持って去る。
入れ違いに、里中由紀子が入ってくる。

由紀子 で、良ちゃんさァ――。ぶっちゃけ、どうしようか、この店。
良子 少し落ち着いたら、隆之介と話しい合わないとね。
由紀子 待ってらんない。
良子 お姉ちゃんに対して、少し言葉づかい考えないの?
由紀子 私、いまブック・バーゲンでバイトしてんの。知ってるでしょ? 古本の全国チェーン。この店、ブックバーゲンのフランチャイズ・チェーンに入ってさ、今風の古本屋に生まれ変わるの。
良子 いきなり、何いいだすの?
由紀子 大体、明治時代の歴史書なんて、誰が買うのよ。あんなもの、みんな捨てちゃって、売れ筋商品を集めて、なんていうのかなあ、人が気持よく流通? そういう感じの店にしたいの。
良子 私、反対です。
由紀子 神保町商店街って、みんな店主の頭が古いのよ。江戸時代から、全然進歩してないもん。うちがすずらん通りに、ブックバーゲンとして生まれ変われば、みんな考え変えるって。
良子 由紀子、そんな考えよくないわ。隆之介と三人で話し合いましょう。

隆之介がやってくる。

隆之介 ……どうも。
由紀子 ちょっと、隆之介、遅れるなら、連絡くらいしてよね、兄妹っていってもさ。大事な話するんだから。電話もつながんないしさ。
隆之介 悪りい、電話の相手がしつこくてね……。

店を見回す隆之介。

隆之介 ……見事に変わらないね、ここも。周りは、変わってんのに。
由紀子 ね、お隣さん、パーキングになっちゃてね。
隆之介 匂いも昔のまんま。その手提げ金庫も前から使ってたやつだろ。
良子 おとうさん、物持ちがいいから。(テーブルの湯呑み茶碗を手にとり)これ、私が、中学の修学旅行で買ったやつよ。
由紀子 フフ、お姉ちゃん、ヤンキーしてた頃、その金庫から、よく失敬してたよね。
良子 うっせ。
由紀子 それでね、お兄ちゃん。
隆之介 なんで、お兄ちゃんって敬語になるんだよ。
由紀子 来て早々だけど、お店のことだけどね、私にお父さんの跡、継がせてくれない?
隆之介 え?
由紀子 私、古本屋の経営してみたいんだ。
良子 ブックバーゲンの、チェーン店に入るっていうのよ。
隆之介 ……。
由紀子 これ、昨日今日の思いつきで言ってるわけじゃないよ。おとうさんのことがある前から考えてたの。おとうさんにも相談しようと思ってたんだ。
隆之介 ……本気か?
由紀子 私なりに考えがあるのよ。ネットでの通信販売始めてさ。次に、地道に神保町の店を組織するわけよ。そしたら、日本中の人がここに来なくても、ネットで神保町の本を変えるわけ。倉庫さえあれば、店に本なんか置かなくてよくなるし。そこはカフェかなんかにするわけ。
良子 それ、妄想よ。計画じゃなくて。ざっくりしすぎ。ねえ、隆之介。
由紀子 私、マジっすから。思いつきでいっているんじゃない証拠に、ブックバーゲンでバイトしてんだから。経営の勉強にさ、ドラッカーも読みはじめたし。
良子 ユキ、はっきりいうけどね、あんた、商売に向かないって。
由紀子 だから、きめつけんなっつーの。やってみなきゃわかんないじゃん。
良子 あんた、子供の頃から、数字に弱かったじゃん、お金にルーズでさ。今はね、道楽で、経営はできないよ。すずらん通り歩いて、古本屋の数、みてみればわかるでしょ。子供みたいに、やりたいから古本屋はじめました、じゃ商売やっていけないよ。
由紀子 いやー、説得力あるわ。商売上手の経営者の旦那におねだりして、ブランド品を買ってもらうセレブ夫人のおっしゃることは。
良子 ……。
由紀子 ね、どう思う? お兄ちゃんは?
隆之介 ……売った方がいいと思う。おれたち、古本屋商売のことなんてよくわからないだろ。元々、三人とも古本屋商売に興味なかったし。土地を売って、売ったお金を三人で割るというのが、一番いい落としどころだと思うけどね。
由紀子 お兄ちゃん、はっきりいって借金あるんじゃないの? ここ売って、借金返そうなんて、下心印の算盤弾いてない?
隆之介 何言ってんだよ。
良子 ここ売れば、それなりのお金になるし。ユキちゃんが下手な商売するよりね。ね、隆之介。
隆之介 ……うん。
良子 あたしね、あんたたちの将来が心配なの。
由紀子 あーら、慈悲深いことで、セレブ夫人は。貧しい演劇青年である弟と、フリーターの妹の行く末をご心配くださいまして。
良子 茶化すな。
由紀子 私は反対だからね、ここ、売るの。だいたい、おとうさんも悲しむんじゃないの? 店がなくなるのさ。この店、おじいちゃんが始めて、戦争前からあったんでしょ。なんとかって偉い作家と、なんとかって凄い作家が、資料、捜しにきてたんでしょ。御用達の店だったって。由緒ある店じゃん。
良子 なんとかって誰よ?
隆之介 司馬遼太郎と、松本清張だろ。
由紀子 そうそう。二人のサイン本、見せてもらったことあるもん。
良子 司馬遼太郎と松本清張知らなくて、古本屋っていわれてもねえ……。
隆之介 けど、親父、店、どうするつもりだったんだろ?
良子 急だったもん。おとうさんも、そこまで、考えてなかったでしょ。
由紀子 そりゃぁ、お兄ちゃんに、継いでほしかったんじゃないの? 長男だし。
隆之介 そんな気配はなかったけどね。
由紀子 そんなことないって、お兄ちゃんに継いでほしかったはずよ。だから、お       兄ちゃんが芝居やることに、反対してたんだって。
良子 実際の話、どうなんだろ? あたし、結局、おとうさんのこと、最後までよくわからなかったな。
隆之介 あの親父だからね。おれも、家の中で、むっつりしてる印象しか残ってないんだよな。おふくろがいなくなってから、ますます、口数が減っていったしね。
由紀子 ちょっと、薄情じゃない。おとうさんのこと、よくわからないとか、むっつりスケベとか。
隆之介 スケベとはいってないだろ。
良子 (持参した菓子の箱をだし)……まあ、落ち着いて話し合おうか? 三人そろったんだし。その為に集まったんだから。
隆之介 由紀子、今、ふと気が付いたんだけど、この店をブックバーゲンにして、親父が喜ぶか。絶対に悲しむよ。
由紀子 じゃあ、お父さんが喜ぶことって何よ。店を売ること?
隆之介 なんか、いやだな。親の遺産を巡って、兄妹間の骨肉の争いだけは、避けような。コテコテのドラマみたいな展開は、。

遺影ががバタンと倒れる。
隆之介が慌てて、立てる。
笑う三人――。
ちょっと不自然。

由紀子 (菓子の箱を開け)いやん、おいしそ。
良子 それね、ダンナの友達のパティシエがやってる店のなの。その人ね、『テレビチャンピオン』にも出ててね。
由紀子 さすが、セレブ夫人。
良子 ユキちゃん、お茶いれて。
由紀子 はーい。

『里中書店』のアルバイト店員、五十嵐圭がやってくる。

圭 失礼しまーす。
由紀子 あら、五十嵐さん。
隆之介 こんにちは。
良子 どうも、お葬式のときは、いろいろ、ありがとうございました。
圭 いえ、とんでもねっす。東京に出てきてから、この店の店長にはずっと世話になったっすから。お役にたててよかった。
良子 父がいなくなってから、ご好意で、毎日、店の本の管理と掃除もしてもらって。失礼かもしれませんけど、お店のことが決まるまで、アルバイトのお金は、お支払いさせてください。
圭 あのー、そのことより、今日はですね、皆さんに会ってもらいたい、ご対面してもらいたい人がいるんです。
良子 はァ?
隆之介 会ってほしい人って……誰?
圭 店長に関係する人っす。
由紀子 お父さんと?
圭 あの、いっときますけど、ぼく、これから、サプライズなことぶちゃけますね。みなさん、心の準備してくださいよ。その人に会う前に。
隆之介 おいおい、心の準備って。
由紀子 なに? やだ、なんか恐い。
隆之介 ハハ、もしかして、親父の愛人とか?
圭 ……あ、先に、ぶっちゃけられた。
良子・隆之介・由紀子 ……!!
由紀子 えー、やだ、やだやだやだやだ、えー愛人!? おとうさんに愛人!?
圭 正確には恋人っす。店長、独り身でしたから。
良子 あら、不倫関係じゃなくても、愛人っていってもいいと思うわ。愛しあうお互いの気持ちが大事なんだから。
圭 世の中的には、不倫関係がある場合に限って、愛人っていうんじゃないっすか。
隆之介 いや、これ、愛人の定義の問題じゃないだろ。
圭 そう、そうっす。店長の女性問題っす。
隆之介 最初からそういえ。
圭 すみません。その人、今、外にいますんで、連れてきます。

店をでていく圭。

隆之介 ……おどろいたね。あの親父に女の人がね……。ウチの親父に限って、そんなことないって思ってたけどな。ハハ、親父もやるもんだ。
由紀子 やだ、ひどい裏切りよ、おとうさん。……おかあさん、かわいそう。(母の遺影を見る)
良子 かわいそうたって、おかあさんがいなくなってから、時間経ってんだもん、おとうさんもいつまでも、独りじゃかわいそうでしょ。
由紀子 ちょっと、二人ともよく、平気な顔してられんね。もう、いや、おとうさん、やっぱりむっつりスケベだったんだよ。物持ちがよくても、好きな女の人は古くなったら、変えちゃうんだ。

お菓子をばくばく食べる由紀子。
喉を詰まらせ、苦しむ。

良子 (由紀子の背中をさすり)バカね、そのお菓子を喉に詰まらせる人初めてみたわ。

圭が鷹男の恋人、秋野順子を連れて戻ってくる。
予想と違い、若い順子に、驚く子供たち。

圭 あの、ご紹介します。こちら、店長の――。
順子 秋野順子と申します。
良子 はじめまして。長女の良子です。
隆之介 ……あ、長男の隆之介です。
由紀子 (しゃべらない)……。
良子 末女の由紀子です。
順子 ごめんなさい、突然、お邪魔しまして。みなさんには、一度、ご挨拶しなければと思っておりました。鷹男さんのお葬式にも、参列したかったのですが、混乱させてはと思いまして……。
良子 ……お話しは五十嵐さんからお伺いしました。正直に言って、驚いています。父と同年代の方だと思っていたので……。失礼ですが、おいくですか?
順子 23です。
良子 ……
隆之介 あの、父とはどういった経緯で知りあったんですか?
順子 ……私、学生の頃に歴史サークルに入ってまして、資料集めで、よくこのお店を利用していたんです。
圭 そうなんすよ。『里中書店』は明治期の資料の品揃えは、神保町で一番ですから。
順子 店に足を運ぶうちに、鷹男さんと親しくなりました。
圭 そうなんすよ。店長、順子さんが、資料捜しで、困ってると、親身になっ       て一緒に、捜してあげたりして。
順子 (菓子折りを良子に渡し)あの、これ、つまらないものですけど。
良子 ……どうも、ご丁寧に。
圭 あの、順ちゃん。いや、順子さんに、線香あげてもらっていいですかね?
良子 ……あ、ああ、そうね。
圭 なら、順子さん。

順子は、遺影を見ると、線香を持つ手が震える。

順子 あなたあー!! (堪えきれずに泣き出す)

その場にいられないという感じで、奥に引っ込む順子。

圭 順ちゃん。
由紀子 (すすり泣き出す)……。
良子 やだ、ちょっと、あんたまで、なに、泣いてんのよ。
由紀子 ……だって、あいつ、私と1コしかトシ、違わないよ。私、えらい差、つけられた……。
隆之介 そこかよ。でも、少し、ほっとしたな。しっかりしてそうな、コじゃないか。もしかしたら、性質の悪い女にひっかかったんじゃないかって思ったからさ。親父、真面目だから。
由紀子 一見、まともそうな女が、一番、恐いんだよ。
良子 ユキ、これは、私たちがとやかくいえることじゃないよ、いくら子供でも、男女のことはどうすることもできないよ。おとうさんが、選んだ人なんだから。そんくらいわかるでしょ。
由紀子 なに、あいつの肩、もってんだよ、お姉ちゃん。

圭が戻ってくる。

圭 あのー。
隆之介 ん?
圭 実は、今日は、店長のことで、あとまだ二つ、ぶっちゃけなければならな       いことがあるっす。というか、ここからが、本題です。
隆之介 ……まだ、あるんだ?
圭 はい。
由紀子 (耳を塞ぎ)もうやめて!
隆之介 今度は親父の隠し子とか?
圭 あら、また、先にぶっちゃけられた。
良子・隆之介・由紀子 (驚く)!!
圭 今度も正確に言えば、隠し子ではないっす。その子、まだ、隠されてない       っすから。
良子 どういうこと?

順子が戻ってくる。

順子 あの、この話は、私の口から説明させてください。
良子・隆之介・由紀子 ……。
順子 私は今、妊娠しています。
良子・隆之介・由紀子 ……。
順子 お腹の子は、鷹男さんとの子供です。
良子・隆之介・由紀子 ……。
良子 (圭に)たしかなの?
圭 ……はい。
良子 何ヶ月ですか?
順子 三ヶ月です。
良子 お父さんは、そのこと、知ってたの?
順子 はい。……認知もしてくれるって……。
良子・隆之介・由紀子 ……。
順子 それで、鷹男さん、私とある約束をしてくれたんです。
圭 あの、みなさん、これから、最後のぶっちゃけに入ります。
由紀子 あんた、黙って!!
良子 約束って?
順子 この、お店のことなんですが……。生前、鷹男さん、私にいってくれたんです。もし、鷹男さんに万一のことがあったら、お店を私に任せたいって。
良子・隆之介・由紀子 ……!!
圭 順子さん、本が好きで、子供の頃、自分の本屋を持つのが夢だったんす。そういった話を店長にしていて――。
由紀子 だから、あんたは、黙れ!!
良子 ……順子さん、それで――。
順子 鷹男さんのお子さんを前にしていうのは、厚かましいことだとわかっております……。この店を私に、任せていただけないでしょうか? もちろん、店の権利はみなさんのものです。売り上げの一部は、納めさせていただきます。
由紀子 (菓子折りを投げつけ)厚かましいよ!! めちゃくちゃ厚かましいよ!!
良子 ユキ!!
由紀子 だいたい、その、約束っての、ほんとなの!? え!?
順子 ……
圭 いや、それは確かっす。おれも店長の口から、聞いたから。

床に落ちた菓子折りを拾う順子。

順子 (菓子折りをレジ机に置き)……これで、失礼させていただきます。今日は鷹男さん
と私のことを、みなさんに知ってもらおうと思っておりましたので。お店のことは、
また、改めて、お話しをさせてください。

店を出て行こうとする順子。

順子 (店内の様子を見て圭に)五十嵐さん、あのさ、本棚に、ポップつけたほうがよくないかしら? そのほうが、お客さんも、本を探しやすいでしょう。それと、手書きのポップを作ったらどうかしら、本屋さんでよくあるでしょ、この本、お勧めみたいな。
圭 あ、いや、そうっすね。いいかもしれんですね。けど、たまに、鼻につく、店員の手書きのポップあるっすよね、上から目線で、本を紹介して、おまえは何様だって感じのが。あんな風にならないポップって、難しいっすよね。

順子は不敵な笑みを浮かべ、良子らに会釈し、去っていく。
圭は順子についていく。

良子・隆之介・由紀子 ……。

間。

良子 まいったね……。順子さんだけならまだしも、子供がいるんじゃ……。       しかも、異母兄弟……。 お父さんもいい年して……。
由紀子 関係ないよ、あの女に、店を任せることなんてないよ。三人で、説得しよう、あの女を。
隆之介 うん、そうだな、順子さんには店のことを諦めてもらうしかない。遺言と言っても文書が残っているわけじゃないんだ。親父の子供と言っても、俺たちと遺産相続の権利は同等なわけだろう。譲ることなない。ここは俺たちの意見をはっきり主張してもいいんだ。
由紀子 どうしたの、お兄ちゃん? 妙に力強い。
良子 私も同感よ。結局、あの女の私利私欲なのよ。この店が欲しいという欲でいっているんだわ。だって、古本屋をやりたいなら、自分で店を開いてやればすむことじゃない。この店を分捕ろうなんて、あさましいわ。
由紀子 言われてみたらそうね。三人で力を合わせれば、法律的にも勝てるわ。
隆之介 ……姉ちゃん、ユキ、この際だからいっておく。
良 子 なによ、改まって。
由紀子 やだ、お兄ちゃんも、ぶっちゃけるの?
隆之介 ユキ、順子さんと話をつけたら、おまえにも、店のことを諦めてもらいたい。
由紀子 ……どうしてよ?
隆之介 ……おれ、今ね、その。
良子・由紀子 ……
隆之介 おれ、今、そのね……
由紀子 なによ? もったいつけないでよ。

隆之介の携帯が鳴る。

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