戯曲「若者たち2018」冒頭

若者たち 2018

作/中島直俊・竹内一郎
登場人物

ニーノ

サト

アイバー

ニーノ(A)

サト(A)

アイバー(A)

MJ(A)

ショウコ

園崎春香

システム音声

暗い空間。どこからか激しい銃撃音が聞こえる。
銃をかまえた男、ニーノのアバター(以下表記ニーノ(A))が走ってきて、物陰に隠れる。
ニーノ(A)は軍服姿。懐から通信機を取り出し叫ぶ。
舞台端で、ニーノ、サト、アイバー薄暗い中、ヘッドセットを付けて、コントローラーを操作している。

ニーノ(A) メーデー! メーデー! こちらニーノ、現在敵に囲まれている。至急、救援を要請する!
サト(A)(声) ラジャー!

男の声とともに爆発音が響く。
ニーノ(A)の元にサトのアバター(以下表記サト(A))アイバーのアバター(以下表記アイバー(A))が走ってくる。全員銃やナイフなど思い思いの武器を装備し、全員軍服を着ている。

サト(A) 大丈夫か、ニーノ。
ニーノ(A) おお! サト。アイバー。よく来てくれた。
アイバー(A) 冷や冷やさせないでくださいよ、ニーノさん。
サト(A) 一人で突っ込むなんて無謀だ! ランボーじゃないんだから。無計画にもほどがある!
ニーノ(A) 無計画? そうでもないさ。

ひときわ大きい銃声が聞こえる。四人は銃声がした方を見る。

サト(A) あれは。
アイバー(A) MJさん?
ニーノ(A) 俺がおとりになって、敵を引き付けている間に、MJが単騎で敵陣に突っ込む。
サト(A) そんな作戦があるなら最初に言えよ!
ニーノ(A) 敵を欺くならまず味方からってね。
アイバー(A) ともかくこれで形勢逆転です!
サト(A) 一気に攻め込もう!
アイバー(A) ラジャー!
ニーノ(A) あっ! やめろ! まだはやい!

飛び出そうするアイバー(A)だが、銃声がして撃たれ、倒れる。

ニーノ(A) アイバー!
サト(A) アイバー! まずい! 敵が押し寄せてくるぞ!

機関銃の絶え間ない銃声音が響きわたり、三人はハチの巣にされて倒れる。
死んでしまった三人。

システム音声 ゲームオーバー! クラン、ハリケーン、ルーズ!

周囲が明るくなり、死んでいたはずの三人が起き上がる。

アイバー(A) すいませーん。俺が飛び出したばかりに。
ニーノ(A) あと一歩のところだったのになあ。
サト(A) まったく。アイバー、もっと注意力を持って行動しろ。
アイバー(A) だから、謝ってるじゃないですか。

三人は死んでいた事が嘘のように明るく談笑する。
そこにMJのアバター(以下表記MJ(A))がやってくる。MJも軍服姿。

アイバー(A) あっ、MJさん。お疲れ様です。
MJ(A) お疲れ。負けちゃったねぇ。作戦失敗だ。
サト(A) MJさんもコイツに活入れてくれよ。
MJ(A) わかった。アイバー、次がんばろう。なっ。
アイバー(A) はい!(笑い)
サト(A) 相変わらずMJさんは甘いなぁ。
アイバー(A) さっきの敵陣への単騎特攻! MJさんメチャクチャカッコよかったですよ!
MJ(A) まぁね。
アイバー(A) さすが、ネット対戦ゲーム、プレイ時間一万越えのネトゲ廃人!
ニーノ(A) お前、調子に乗り過ぎ。
サト(A) 言葉に気を付けろ。
MJ(A) (笑い)いいよ、いいよ。本当の事だもん。それよりも、次はどうする?
アイバー(A) 市街戦は飽きたから、次はヒマラヤ山岳ステージはどうです?
サト(A) ヒマラヤか。あそこを拠点にしてるクランはレベル高いぞ?
アイバー(A) あそこで活躍したら、俺たちのクラン・ハリケーン、ネットゲーム界で一躍ヒーローですよ。
MJ(A)だな。やってみるか。

沸き立つ四人。
ニーノ(A)が前に出てくる。

ニーノ(A)  二〇〇八年。このゲームの仮想空間が、僕達の遊び場だった。僕の名前はニーノ。もちろんハンドルネームだ。
サト(A) 僕達はオンラインゲーム「バトルフィールドオブガンナーズ」通称バトガンのプレイヤー。
アイバー(A) バトガンはファーストパーソン・シューター、略してFPSというジャンルのゲームで簡単に言うと戦争ゲームだ。
MJ(A) プレイヤーは仮想空間の中で兵士になる。そして自分のゲームキャラクターを思い思いにカスタマイズして、世界に一つだけのアバターを作る。
アイバー(A) アバターはネットゲームの中の、ユーザーの化身だ。ユーザーは自分の思い通りにアバターをカスタマイズできる。(両手を拡げて)
ニーノ(A) ちなみにこれは俺のアバターで俺本人じゃない。リアルの僕は。

現実のニーノが歩いてくる。ニーノの手にはコントローラーがあり、その頭にはボイスチャット用のヘッドセットがかかっている。

ニーノ これが本当の僕。自宅のパソコンの前でこのアバターを操作して(コントローラーを動かすとニーノ(A)がそれに合わせて動く)、このボイスチャット用のヘッドセットを使って他のプレイヤーとコミュニケーションする。

ニーノはヘッドセットのマイク部分を口に当てる。

ニーノ&ニーノ(A) こんにちは、僕の名前はニーノです。(2人同時にしゃべる)

ニーノはマイクを外す。

ニーノ 僕達はこうやって、この仮想空間で戦争をしていた。
ニーノ(A) 正しくは戦争ゴッコ。銃弾が当たっても痛くはないし。死んでも、次のゲームでは生き返ってピンピンしている。
ニーノ こういうゲームは不謹慎だとか野蛮だとか、よく非難されるけれど、とにかく面白い。2008年、十年前の僕にとって、バトガンのフィールドは絶好の遊び場だった。窮屈で息苦しい現実から解放されて、自分が思い描く通りの、理想の自分になれる。

ニーノ(A)は仲間たちの方へ戻っていく。

ニーノ(A) アイバー。ヒマラヤ、わくわくするな。
アイバー(A) そうですね。全身に力がみなぎってきます。
ニーノ 彼はアイバー、僕達のクランのメンバーの一人。ちなみにクランというのは、FPSのゲーム用語でチームの事。
MJ(A) そういえば、アイバー君。聞いたよ。動画サイトに君がアップした歌。
アイバー(A) えっ? マジですか? ありがとうございます!
MJ(A) いやあ、歌、上手いね。これはプロデビューも遠くないよ。
アイバー(A) ポロポリ。(照れる)
ニーノ アイバーは歌手志望だった。十年ほど前から、ネットでは多くの動画サイトが生まれ話題になっていた。その動画サイトに自身の歌をアップする事が、流行りだした。後に自分の歌をネット上にあげる人の事を世間では「歌い手」と呼ぶようになる。アイバーはそんな歌い手の先駆けだった。彼はいつの日か、メジャーデビューを果たしたいという夢を語っていた。
サト(A) お前ら、早く行くぞ。
アイバー(A) 待ってくださいよ、
サト(A) 早く!!
ニーノ 彼はサト。僕達のまとめ役だった。
アイバー(A) 文句言いつつ、まとめ役やってくれるからサトさんっていい人ですよね。
MJ(A) ツンデレなんだよ。
サト(A) やめてください!
ニーノ(A) まぁまぁ、こういうことも小説のこやしになると思って。
サト(A) お前たちの事なんか小説になるわけないだろ。
MJ(A) そうかな? ゲーム世界を舞台にしたファンタジーなんか小説になりそうじゃないか?
アイバー(A) ラノベで売れそうですよね、ソレ!
サト(A) ラノベ? ライトノベルなんか小説じゃない! ラノベには、人間の懊悩、葛藤、社会の不条理に振り回される人間のはかなさ、悲しみが描かれていないじゃないか。ガキの読者が喜ぶように、みんな正義がかつ。予定調和のハッピーエンドばかりだ。出版社は本が売れさえすればばいい。儲け主義の産物だ。俺は人間の苦悩を描く。社会の不誠実をえぐる。文学界に新風を起こし、、第二の芥川、太宰となる。
ニーノ(A) また始まった。
アイバー(A) 熱いな~。
ニーノ サトは小説家志望だった。商業的にはうまみのない純文学を心から愛していた。文学論を語りだすとすぐに熱くなった。
ニーノ(A) ホント、サトは夢にかける情熱がすごいな。
MJ(A) 夢と言うなら、ニーノだってすごいじゃないか。
アイバー(A) そうそう。聞きましたよ、美大の作品展でまた賞をとったって。すごいですよね。よっ、未来のダ・ビンチ。
ニーノ(A) いや、学内の小さな賞だよ。
ニーノ 僕は、洋画家を目指していた。美大生で無邪気に、伝統的な油絵の価値が普遍的であると信じていた。今思うと子供だった。小さな賞をいくつか貰って、天狗になっていただけだ。
MJ(A) みんな夢があっていいな。何もないのは僕だけだよ。ひきこもりのニートだから。

他の三人は気まずくなる。

MJ(A) えっ? 何、この空気? 笑うとこだって。
ニーノ(A) いやぁ、流石にちょっと……。(笑い)
ニーノ 彼はMJ。クラン一の実力者で、今日みたいなチーム戦だと僕達が足を引っ張るけど、個人戦で彼が負けている姿を見た事がない。それもそのはず、彼は一日中、この仮想空間でゲームに興じている。そのプレイ時間は優に一万時間を超えるらしい。俗にいう廃人ゲーマーって奴だ。MJは事あるごとに、自分を、引きこもりだ。ニートだ。つまりヒキニートだと卑下した。でも、僕も、他のクランのメンバーも、彼が大好きだった。物腰が柔らかく、誰の意見も、深く考えてくれるし、必ず励ましてくれる。僕は絵描き。アイバーは歌手。サトは小説家。それぞれに夢を追いかけていて、よくここで語り合った。夢を追うといっても、現実は甘くない。僕たちはしょっちゅう打ちひしがれていた。そんな時、いつもMJは、僕たちを肯定してくれ、夢が叶うことを心から願ってくれた。

アイバー(A) 次の戦場ですけど、やっぱり密林ステージにしません?
ニーノ(A) そうだな。ゲームで、上を目指すって、俺たちらしくない。
サト(A) じゃあまずは装備を確認しよう。それで、次の作戦を立てよう。

四人はフリスビーを始める。

ニーノ 僕たちが作戦会議をするときは、決まってフリスビーをやりながらだった。ネットゲームは日常の暇つぶし。僕達にとって、戦争は、ゲームの中のものでしかなかった。
アイバー ここで過ごしたクランのみんなとの友情は、ゲーマーではない人には理解して貰えないかもしれない。
サト だけど、お互いをとても深く理解しあっていたように思う。
ニーノ 将棋指しや碁打ちが勝負の中で、一言も言葉を交わすことなく、考えのすべて、心のすべてを晒し合いながら、信じられる相手を得るようなことだろう。
アイバー 同じ空間で過ごした時間は、ただの一秒もないけれど、僕たちはゲームで遊び、そして夢を語り合った。
サト 色んな言葉で表現できる喜びかもしれないが、一言でいうなら、楽しかった。そう、ただ楽しかった。
MJ(A) あのさぁ。

MJ(A)の言葉に、他のメンバーは近寄ってくる。

ニーノ(A) どうかした?
MJ(A) あのさ。今度、オフ会しないか?
アイバー(A) オフ会? リアルで会うって事ですか?
MJ(A) どうかな?
サト(A) 俺はいいけど。
アイバー(A) 僕もかまいませんよ。
ニーノ(A) いいですよ。でも、どうしてまた?
MJ(A) 僕、引きこもりだからさ。最近家族からのあたりがどんどんきつくなってきてるんだよ。昨日も妹から、たまには外に出たらってせっつかれて。
アイバー(A) え? MJさん妹いるんですか? カワイイ? カワイイ? 歌手でいうと誰に似てます?
サト(A) お前、食いつき過ぎ。(アイバー(A)の頭をはたく)

一同、笑い。

MJ(A) それでどうせ外に出るなら、みんなに会ってみたいなって思ってね。
ニーノ(A) そういうことなら、メッセージボックスに僕のメルアドを送っておくよ。日程はおいおい決めよう。
MJ(A) よし、決まった。ありがとう。ここでみんなと出会ったのは偶然だけど、一度ぐらいはリアルで会っておきたいと思って。
ニーノ(A) でも、なんだか恥ずかしいな。
アイバー(A) そうかな。俺、わかりますよMJさん。俺もおんなじ気持ちッス。でも偶然ですかね。
サト(A) 何がだよ?
アイバー(A) だって、僕らのハンドルネーム、ニーノ、サト、MJ、そしてアイバー(それぞれを指さしつつ)、もろにあの有名アイドルグループのメンバーの名前ですもんね。一人足りないけど、これはもう運命の必然ですよ。
ニーノ(A) そうそう。最初はハンドルネームが、縁で組んだんだよな、俺たち。
サト(A) 言っとくけど、俺のサトというハンドルネームは、別にアイドルをもじったものじゃないぞ。敬愛する実存主義の作家・サルトルから貰ったんだ。
MJ(A) そうなんだ。 僕は本名が村井順一だから、頭文字をとってMJにしたんだ。
アイバー(A) 村井順一。すごい普通の名前ですね。それで松潤と同じイニシャルって、詐欺みたい。
MJ(A) 詐欺はないだろう。僕に悪意はなかったんだから。
サト(A) お前どうして、アイバーなんだよ。
アイバー(A)俺がニコ動で「愛がー!」って歌ったら、周りから「アイバー」って聞こえるって言われて。
ニーノ(A) それがハンドルネームになったわけ?
サト(A) 「愛が」を、「アイバ」に聞こえるように歌うの返って難しくないか?
アイバー(A) それが俺の才能だよ。
ニーノ(A) あの、俺のハンドルネームの由来、誰も聞いてくれないの?
サト(A) まあ、いいじゃない一人ぐらい。
ニーノ(A) 俺、そんなに軽い存在でいいわけ? ひどい。
アイバー(A) とはいうものの、クランの名前を決めたの、サトさんですよね。「ハリケーン」って、絶対意識しているでしょう? ハリケーン。日本語に直したら○○〇だもの。(笑い
サト(A) だって、その方が面白いだろ? せっかくメンバーが揃っているんだし。
ニーノ(A) そうなるともう一人欲しいよね。
アイバー(A) そうだ。MJさんの妹さんをゲームに誘ってくださいよ。
MJ(A) 無茶ぶりだな。でも、あいつもゲーム好きだから、頼んでみる。君たち僕の妹の本名を聞いたら、きっとびっくりするよ。
サト(A) モデル系の名前ですか? 盛り上がってきた! では、次の戦いに備えて、気合を入れよう。
ニーノ(A) 気合って、またアレやるの?
アイバー(A) なんだかんだ言いつつ、サトさん一番楽しんでいますよね。
サト(A) それほどでも。
MJ(A) よしやるぞ!

どこからともなく、嵐の曲「A・RA・SHI」が流れてきて、メンバーが踊る。振付はオリジナル。
それは戦い前のクランの儀式のようなもの。
踊り終わり、ストップ・モーション。
――溶暗。

ニーノ MJが提案したオフ会は、結局行われる事はなかった。
サト それからほどなくして、僕達が遊んだバトガンがサービスを終了したからだ。

四人のアバターたちは、セリフ中で一人ずつ去っていく。

アイバー それは、オンラインゲームではよくある事で、ネット上で運営されているゲームはそのサービスが終了すると、完全にこの世からなくなってしまう。
ニーノ あれだけ楽しんだゲームの仮想空間も、仲間たちと夢を語り合った思い出の場所も、あっさりと僕の前からなくなってしまった。
サト 僕たちは一生の親友を得たつもりになっていた。
アイバー でもそれは幻想に過ぎなかった。僕たちの友情は、ゲームの仮想空間と一緒に消滅してしまった。
サト それからちょうど十年の月日が流れた。

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